2013/05/01

人生色々こぼれ話(27) 〜絵の迷い道③



人生色々こぼれ話(27
絵の迷い道③

3月~4月は私自身の関わる展覧会が四箇所で行われ多忙を極めた。いずれもグループ展であるが
私の主宰するみずき展のほかは、例年参加している馴染みのものである。
しかし今年は知人からの要請で「日本の古民家美術展」というのを「大倉山記念館」で開催するので
ぜひみずき会の皆さんにも出展してほしいという。


そこで閃いたのが、私たちの得意なイギリスの古民家や中世の町並みをモチーフにしたものを展示す
るというアイディアである。知人で現在山梨の古民家に住んでいる写真家の長谷川さん(長谷川和
男・長谷川一夫ではない。初対面の自己紹介時に、その風貌の違いに人は驚くという。・・・・本人談)に逆提案したら「要は古民家の良さ、美しさを知ってもらうというコンセプトなので、イギリスコーナーみたいなものを作るのはどうだろう」との反応である。


よしやってみよう!と2010年、2012年のイギリス旅スケッチのメンバーに趣旨を伝え呼びかけたとこ
たちまち30点の作品が集まった。みずき展に準備した候補作が続々と出揃った。みずき展に出展
できなかった作品たちが陽の目を見た形でまさにタイムリーな企画となった。


大倉山記念館は東横線大倉山下車7分の丘の上に立つギリシャ神殿風の白亜の殿堂である。
公園の木立越しに眺めるその佇まいは絵のモチーフとしても絶好である。
1932年に大倉邦彦(大倉洋紙店会長、後に東洋大学学長)により創設されたが現在は横浜市が管
理(チャーチル会会員高井禄郎が財団の理事長)していて映画のロケなどにも使われている。ギャラ
リーは回廊風のつくりで、中庭に面しクラシックではあるが明るく美しい。












コッツウォルズの古民家を中心に横浜山手の洋館も加え39点(全体の25%)の出展で見ごたえの
ある展覧会となった。来訪者からも穏やかで、明るい色彩空間に癒されたと好評であった。
どちらかというとモノトーン風の日本の古民家の写真や絵とのコントラストで訴求力の高い演出効果があったようである。
 


この展覧会で大きな学習があった。通常絵のディスプレイは横一列の直線羅列型で展示する。ところが今回は違った。或る女性(インテリア コーディネーターでデパートの売り場のレイアウトを仕事にされている専門家)の感性溢れるユニークな展示(三角、逆三角、たすきがけ、イーゼル展示などバラィティに富んだもの)で絵が生き生きとして鑑賞していて動きを感じるのである。
私たちは大体サイズ6号の透明水彩画のみであわせて画風が似ていて統一感はあるもののどうして
も変化に乏しい。
 



私は教室(大倉山公園を描く)を含めて展覧会の期間4回も坂上の会場に足を運びいささかグロッキ
ーであったが、最終日に長谷川さんたちと美酒を交わしながら展覧会とみずき会のマッチングは素晴
らしかったとの総評を得て疲れは吹き飛んだ気分であった。







3月、4月は展覧会シーズンで25の展覧会場に出掛けた。東京、横浜などでは掛け持ちでいわばは
しご鑑賞となる。いつも来ていただく方への答礼も欠かせないし、義理のお勤めみたいなケースもある。
初めの会場で会い、最後にまた一緒になった或る先生は、今日は7箇所で芳名帳サイン会みたいな
状態です。と言っていた。
「日本スケッチ画会」に入会してからペン彩画の作品を見る機会も増えてきて、それなりに勉強になっ
ている。とてもこんな風には描写できないと感心することも多い。



昨今ペン彩画から水彩画に転向する方が多いように思う。同じ透明水彩を絵の具としながらペン彩と
水彩は天才と○○は紙一重、とはいかない。月とすっぽん、ダンスホールとマンホール程の違いがあ
る。

私はペン彩画で師範代の域に達した方には、水彩への転向をお勧めしないことにしている。せっかく
蓄積された細密な技術が失われるリスクがあるからである。
まずデッサン力を蓄えてから、水彩へのステップへというプロセスも当たっていない。
ペン彩画は文字通りペン(線)で形作り、さらっと彩色して絵にする。これに対し水彩は鉛筆で当たりをとり、いきなり面でトーンを意識しながら彩色してゆく。
通常ペン彩画は4号サイズが中心であるが、水彩画は描こうとすれば20号、30号といった大型へ
制作も可能である。技法も多彩である。
結局絵を描くことに飽きてきたり少し大きな絵を求めて水彩画を描きたいという思いからであるが、こ
こにも趣味でありながら、絵の迷い道に差し掛かっている方を見受ける。


私が本格的に水彩画を描こうと思ったのは、前にも触れたように安野光雅の画集であり林望のエッセ
イである。そして町の水彩画家・前川隆敏の個展であった。
これまでのめりこんだ趣味の遍歴を振り返ると、合唱、川釣り、ゴルフであるがいずれも大成することなく終わってしまった。合唱団の指揮棒を振ることはなかったし、川釣りのMAPやハウツーものを書いたこともない。ゴルフに至ってハンディ20で行き止り、その後腰痛でリタイアーとなる。



“老いても新しいことを創める”さる哲人の言葉であるが、 私も70歳を過ぎ会社生活をリタイアーしてからの本格挑戦であった。NHK通信講座、朝日カルチャースクール、個人の水彩画教室と同時進行
で描き始め、本を読み漁った。水彩はイギリスでなければと思い立ち旅スケッチを続けた。 絵を描く
人や社会との交流を求めてチャーチル会に入会した。


はじめの頃は膝まで積み上げるほど描こうと思い年間80100点は描きまくっていたように思う。これ
が正しいかどうかはわからないが、風景を見てありのままを描くのではなく、自分でイメージを膨らませ絵を創ってゆくという体験学習にはなったように思う。或る程度早く描くという習性も備わってきた。絵は見たままを描けば良い。という先生がいるがそれはおかしいし第一描けるわけがない。
私は好きな作家の模写をした。展覧会を見るのが好きになった。この二つは絵のコツが身につく早道
だと思い今でもビギナーの方に勧めている。


画材は一に筆、二に紙だと信じている。絵の具は好き嫌いの問題でさしたる差異はないように思う。
私は好んで個展を開かない。絵描きという職業ではないので制約はないしPRも、ましてや代償も不
要だからである。

しかし一般のアマチュア作家の個展にはできるだけ参上しその情熱に敬意を表すことにしている。
公募展は目的が違うので出展しない。私がコンテストに参加するのはチャーチル会の全国大会くら
である。


現在チャーチル会の幹事長を4年も務めているが“絵を描いて社会に貢献”というコンセプトにいささ
かやり甲斐を感じている。


みずき会では会員の皆さんにどうしたら良い絵(うまい絵ではなく)が描けるかをいつも考えながら、今年は一人一人の方に課題を設けて私とそれを共有することを試みている。
みずき会も展覧会がその年の大きな目標であり励みになってきたように思う。皆の気持ちやベクトル
がそこに向けて高まり、結びついて行くのは素晴らしいことだと思う。



いつになく真面目なエッセイを書き肩が凝ってきたので最後にお笑いコーナーを設けます。
前号で或る展覧会に公開してあった川柳を紹介したけど、今回は私も作ってみました。如何でしょう。
絵を描く方は思い当たる節があるはずです。

“きれいね!と 言われるうちに 描きすぎて

“友ありて 上手くなり過ぎ すきま風”

“画評会 今日も褒められ 首かしげ”     
                       以上

(連休入りで絵もお休みです。6月の二つの展覧会の絵はほぼ完成しました。絵の迷い道と題して3
回にわたって描く方も描かない方も迷い道に誘ってしまいました。お付き合い頂き有難うございまし
た。)