2010/03/10

イギリス旅行の楽しみ方


 
今年は7年ぶり(9回目の訪問)にイギリスの旅が約束されていて何となく心が浮き立ち、ふるさとに帰るようなときめきすら覚えている。

あのどことなく貴族のエレガンスを感じてしまうコッツウオルズの佇まいが、目に浮かんで、しみじみと旅情を誘う。森の散歩道、小川のせせらぎ、路地裏の石畳、ライムストンの家並み。目に浮かぶそのすべてが心地よい旅の行方を告げている。そしてともすればおぼろげになっている記憶を呼び覚ますように小さな旅は始まっていくに違いない。

この6月28日~7月9日「羽佐間英二と行く英国コッツウオルズの旅スケッチ」のプランが出来上がった。どうしてもこのマナーハウスに泊まりたい。このスポットで描きたい。

緑滴る木陰で時が止まるような安らぎの中にじっと身を委ねたい。

しかも薔薇の咲き乱れる ブライダルジューンの最中に3連泊、5連泊の贅沢なプランを実現してくれた「ワールド・ブリッジ」の栃木さんには感謝の言葉も無い。

先のエッセイ「水彩画の良く似合う英国の田舎町」は思いのほか好評だったので、今回は旅を楽しくするヒント集をお送りする。これは私の積み上げたメモランダムなので、旅行案内書とは一味違う手作りのSPかもしれない。

・ のんびりと汽車で辿る旅

イギリスの列車は快適というわけではない。ロンドンのすべてのターミナルでその日によって出発のプラットホームが異なるので、旅行者は大きな電光掲示板を仰ぎ見て待つことになる。番線が決まると人々は一斉に自分の乗る列車をめがけて走り出す。

改札チェックは一切無い。降りる時もそうである。車内での車掌の検札はきちんとしている。合理的であり、何度も関門のある日本に比べると気分がいい。

困るのは列車に行き先表示が無いことだ。どこに行くのか、目的の駅で止まるのか確かめて乗る必要がある。私もある時その時間に正確にやってきた列車に飛び乗りこれが時間遅れで到着した特急でロンドンまでノンストップの列車であった。乗り換える予定駅を通りすぎてからそれに気が付き、ロンドンから引き返して目的地に着いたのは夜更けてという出来事もあった。

トーマスクックの時刻表(日本でも売っている)は時折間違えがある。日本の旅行誌等のアクセスや所要時間もいい加減な場合がある。時刻表はその駅でもらえる無料の物が正しくハンディで良い。

ローカル線では多くの列車はドアがボタンで開ける半自動か、自分でハンドルを回して外側に開けるタイプのものである。アガサクリスティの小説の雰囲気であり旅ののどかさを感じる。ファーストクラスは線によっては6人のコンパートメントになっている。といってそんな豪華なものでもなく、かえって密室に閉じ込められている感じがする。

夜間などは少し不安がある。(オリエント急行の殺人 をイメージしてしまう)緊急時は紐を引っ張って知らせるのだが、いたずらで触ると50£の罰金である。(地下鉄も同様)道路以外は鉄道に頼るしかないので鉄道網はよく整備されている。然し民営化されて久しいが、競争してサービスの向上や施設の改善がと思うけど、古き伝統を大事にする英国人さながらに頑固なまでに昔のやり方を貫いている。突然本日はストライキ、も日常茶番事である。車窓に広がる景色の広大な美しさに比べると列車や駅やサービスの質は劣るのが実感である。

それでものどかな各駅停車のローカル線の旅は、英国ならではの旅情に満ちている。

ブリットレイル パスという外国からのツーリスト向けのサービスがある。切符を買う手間が省けるし、コスト的にも大幅割安感がある。シニア向けの割引も嬉しい。車内の検札もこれを持っているとツーリストとして敬意を表してくれる。但しローカル線ではあまり見かけないらしく戸惑っているコンダクターもいて、こちらが仕組みを説明する場面もあった。こんな微笑ましい出会いを乗せて汽車の旅はゆったりと続く。


・ ロンドンはバスが面白い

ロンドン市内の足は他の国と同じようにバス、タクシー、地下鉄の3つでそれぞれ独特の個性を持っているが、楽しめるのはダブルデッカーと呼ばれる例の2階建ての赤いバスであろう。それも新式のワンマンバスではなく旧式の車掌つきのがよい。乗る時は停留所でルートNO.を確かめて、降りる時は外の景色を眺めながらこの辺だと思って赤いボタンを押したり、紐を引っ張ったりして降りる意志を告げる。行き過ぎたら信号待ちの間に適当なタイミングで飛び降りている人もいる。勿論車掌に予め頼んでおけば

大声で停留所名を教えてくれる。次は○○というアナウンスは無いので、降りたいところで降りろといった感じである。一日券を買えばどこで乗っても降りても何回でも自由である。2階に座りっぱなしで往復を楽しめば観光にもなる。

馴れてしまえばこれほど便利なものは無い。無料のバスマップは必携である。

目的地に早く着きたい場合は地下鉄を選ぶことになる。パリと並んで穴倉と迷路で暗くて汚い。単なる移動の手段と考えたほうがが良い。

ロンドン市内を動き回る場合はバス、地下鉄共通のワンデイ トラベルカードが激安で便利である。ZONE1,2を買っておけば市内の殆どが網羅できるし、何度でも乗れる(前は2,80£だった)


・ ノーブルなタクシードライバー

黒塗りのタクシー(ブラックキャブ)は快適である。ドライバーも紳士然としていてマナーが良く、博識である。かなり難しい試験をパスしてのドライバーなので信頼度は高い。乗る時は助手席の窓を下げてもらい行き先を告げてokなら後部の扉を自分で開けてまずはレディを乗せて自分も乗ってドアを閉める。降りる時はこの逆となる。ドライバーは市内の地理や道路事情に詳しく、最も適したルートを走ってくれる。

料金メーターは二つあって合算したものが支払うべき運賃である。曜日とか時間帯でベース料金を別建てで支払う仕組みである。着いたらたらまず外に出て窓越しに金額を聞いて料金を払い、別に10%~15%のチップを払う。

ドライバーはポーターでは無いので、車体の高いオースティンの後部座席にスーツケースをヨイショ!と乗せるのはこちらの役目である。ホテルではドアボーイがやってくれる。

湖水地方やコッツウオルズなどでは、タクシーと時間契約をして回るのが一番である。

ショーファーと称する案内ドライバーが親切にポイントを回って説明してくれる。一日80£位で請け負ってくれる。

私はこの方法で2日間湖水地方を回ったが、通常1週間滞在してこなせるような広範囲の行程であった。勿論簡単なスケッチをしながらである。


・ スケッチはレンタカーがベスト

ある年コッツウオルズの村々を3日間で300KMほどレンタカー(プジョーのコンパクトカー)で走ってみた。道路は整備され、標識も見やすいがその地方の詳しいロードマップは必携である。一般道路は50~60マイル、高速は80マイルの制限スピードとなっているが、ハイウエイでは皆お構いなしにぶっ飛ばしている。ポリスカーによるチェックにはお目にかかったことが無いがカメラチェックで後々御用となるらしい。

ラウンド アバウトというロータリーのようなものがやたらと多い。時計回りオンリーで右側優先の単純なルールなのだが、これが慣れるまでちょっと神経を使う。しまったと思ってもあわてないで、ぐるぐる回りながら出る方向を見極めて、抜け出すこととなる。信号方式よりスムーズで流れが良いので渋滞は殆ど無い。

英国のガソリンスタンドはペトロール ステーションといい自動給油方式である。日本のシステムと変わりない。ロンドンのような複雑な道路は無理として、レンタカーで行くスケッチ旅は制約がなく、これはと思うスポットで車を止めて描けるので便利この上ない。右ハンドルであるのが何よりも抵抗が無い。細い道に進入することもあるので、1000cc程度の小型車が良い。


・ イギリスは美味しいか?

イギリスにグルメの旅をする人は珍しいといわれる。確かに肉料理とか魚料理とかの

違いはあってもソースは単純な味だし、ついている野菜はボイルしただけの水っぽいものである。細やかな加工とかデリケートな味わいとは程遠い。だから単純にハム、ソーセージ、ベーコン、ロストビーフとかマッシュルームのソテーといった単品の方が美味しい。普通は3コースとしてスターター、メインディシュ、そしてスイーツとなっていてそれぞれその中からメニューを選ぶ。スープは案外美味しいしボリュームもある。パンはどこで食べても失望することない。だからホテルでの朝食はコンチネンタルタイプのもので充分である。パンとママレード、フレッシュジュース、ティー、フルーツで楽しめる。何しろ料理というものはボリューム本位である。パスタなどは深い皿に山盛りで出てくるので、シェアーするしかない。たまにレデースポーション プリーズで少なく盛り付けてくれるビストロもあるが、あまりお構いなしである。サンドウイッチ、フィッシュ&チップスなどパブも然りである。

甘いスイーツを無理やり水で流し込んだあと、また出てきた銀製の器の蓋を恐る恐る開けたら中身はチーズのアソートメントだった時は思わずのけぞってしまった。

ステーキはウェルダンで注文すると適当に焦げ目がついていて美味しい。魚料理は

サーモンか鱒が定番であるが、コッドという鱈のような白身の魚にソースのかかった程度のもので、いわんや焼物、煮物、加工した魚料理にはありつけない。ドーバーの舌平目など高いだけで美味しくない名物もあるのでご用心を。

水は硬水なのでとにかく紅茶の風味は抜群といえる。ミルクテイーがポピュラーなようだがむしろプレーンの香りを味わったほうが良い。スープが美味しいのも水のせいかもしれない。英国のホテルは水道水を飲んでも差し障りは無いが、ボトル入りのミネラルウォーター(ノンガス)を薦める。

ビールは生ビールがいける。ワンパイントはさしずめ中ジョッキ、ハーフパイントは小

ジョッキ(1£)といった感じである。ワインは日本のレストランの半値程度である。勿論ピンキリだけど、フルボトルで15£位が普通である。

アフターヌーンティーのひとときはホテルのラウンジ、パブ、街なかのティルーム等

どこでもリーゾナブルに楽しめる。本格的なハイティーとなると、サンドウィッチのアソートメント、ジャム、生クリームつきのスコーン、イチゴのタルトや甘くないシュークリームなどなどの3段トレーとあつあつのティーポットとうすめ用のホットウオーターが出てきて一人5~10£くらい。午後のひとときおしゃべりをしたり、本を読んだりの、のんびりとした時間が過ごせる。街なかではティーとクッキーなら2£で楽しめる。日本の喫茶店の何とばかばかしいことか。

ついでに、どこの国でも同じだが、町なかで日本料理は食べないほうが無難である。

中華は気軽に行けるが当たりはずれがあって、必ずしも満足を得られるわけではない。

お昼のわんたん、焼きそば、チャーハン、といった定番物はまず問題ない。。

日本語つきのメニュー看板で誘っている店は避けて、チャイニーズのお客が入っている

小さな店が狙い目といえる。ロンドンではチャイナタウンを外れた町なかに店を構えている老舗がおすすめである。つい感激してチップを弾んでしまい、あとでやり過ぎたと後悔のこともある。

ツーリストにとって、イギリスは不味いとの間違った定説があるが、本格的なレストランで味わうモダンブリティシュと呼ばれる料理は素晴らしいし、ロンドンでは各国料理

を思いのまま味うことができる。

林望によると「イギリス人は味の個人主義があって、フランス人のようにこれは正しいのだといわんばかりのお仕着せの味付けを強制しない。だから必ずテーブルに置いてある食卓塩で自分の好きな程度に塩味をつければよい」と云っている。

  これは納得のゆくコメントである。イギリス人はもともと塩味に対する感覚が鈍いだけのことなのだ。あの水っぽい温野菜には是非適量の塩をどうぞ。

  ついでにイギリスの料理店はパブ、ブラッセリー、ビストロ、レストランの順序で

  ランキングされていると思えば良い。


・ショッピングは地方都市が面白い 

ロンドンでボンドストリートや.リージェントストリートでウィンドウショッピングするのは華やかで楽しい。オックスフォードストリートというのは人が多いだけで、汚くて、柄が悪いので避けたほうが良い。ロンドンよりも地方都市に行った折に気に入ったものが割安で買えるので、気をつけて歩くと良い。現物の良し悪しを自分の目で確かめて、値段と相談し、買うとなったら、ベストプライスを引き出して求めると良い。私はポートベロー(映画・ノッティングヒルの恋人で有名)のマーケットが好きで、ロンドンでの半日をここで費やすことが多い。アクセサリーやアンテーィクの店を覗いて歩くだけでも興味は尽きない。パブの看板のミニチュア、スケッチのポストカードや画材、ガラクタ市の小物、めちゃ安の果物(夜・ホテルで)などだんだんとバッグが重くなってしまう。

それにしても、日本人は何故外国に来て日本のデパートでものを買う習性があるのだろうか。何もここまできて三越の包装紙で丁寧にラッピングされたお土産を買い込むこともあるまいと思うしデパートならハロッズのほうがすべてにおいてエキサイティングでエクセレントなのだから。

イギリスと日本の物価を円ベースで比較してみる。

高いもの

タバコ、鉄道(BR)の運賃、料理全般(中華も含め)、ホテル代、VAT(消費税)

チップ

安いもの

衣料品、(スーツ、シャツ)靴、ビール、ワイン、観劇、街のスナック・ティー、地下鉄・バス代、タクシー代、 このあとミュージカル、ホテル事情などなど紹介したいこともあるが、今日のところはこれにて中締めとします。                 

 ところでおまけにもう一つの小知識を付け加えます。(これも林さんの説)

 イギリスを旅しながら似たような名前の町や村に出会う。そこに名づけの意味があるはずだと思っていたが、地名の末尾につく意味合いは次のようなものである。

  ~ton   ~の農場

  ~don   ~の丘、または谷

  ~worth  ~家の所有地

  ~chester  ~城

  ~ham   ~の入植地

  ~ford   ~の渡し



 これだけでも旅の楽しみがまた一つ増えたような気がする。    以上