2011/05/16

第3回みずき会 作品集


こんな時期に単なるアマチュアクラブが展覧会を開いてどうなのか。被災地で辛い日々を重ねておられる方々に顔向けが出来るのか。お客様は来てくださるのか。余震への安全性は大丈夫だろうか。等反問することは少なくありませんでした。

結果は920名のお客様が見えて、かえって激励やら賛辞を頂きました。「とても爽やかで重い気分が晴れました」「絵がこんなに説得力も持つとは知らなかった」などの感想もありました。それは同時に私自身の実感でした。節電で暗い館内のアプローチを抜けると眩いばかりに輝くギャラリーがありホッとしました。

皆さんの技能の進化もさることながら、気持ちのこもったストーリーのある作品が多かったように思います。難局は続きますが、明るい気持ちを取り戻しながらこれからも楽しく絵を描きましょう。

皆さんの代表作品に簡単なコメントを添えました。    
                                 代表 羽佐間 英二



小さなパティオ
                      羽佐間 英二
ブロードウエイで見つけたおしゃれな空間です。石壁の淡いオレンジがかったアンバーと蔦のグリーンとの取り合いに目を奪われました。少し傾いた白と赤のオーニングの蔭に覗く窓辺を見たときこれはテーマになると思いました。




土屋 登志江      
緑 陰 
 
風景を単純化して、相対する家を主題に一気に動きのある絵を描き上げています。近景の樹木の大きさ、位置が適切で、その幹と白壁のコントラストが良い対比となっています。風の通り抜ける緑陰を感じます。充分に暗いところがあるので、もう少し道の影の表現を単純にあっさりと描いたほうがよいでしょう。




佐々木 志保子
刻の流れ

今にも夕立が来そうな空の雰囲気が見事に表現されています。偶然のにじみの効果が絵に味わいを添えています。モノトーン風に仕上がっていて、光る海や空を際立たせています。迫力と動勢を感じる良い絵です。遠景のシルエットにもう少し表情を。中景の客船はややあっさりと処理した方がこの風景には馴染むでしょう。題名いいですね。




吉岡 多枝子
私の好きな街

光の取り込み方が卓越しています。この絵の主題である赤いオーニングと店内の雰囲気が柔らかくとても良いタッチです。左空間を埋めるように歩く人物の取り入れ方も適切です。逆光のまぶしさを感じます。淡い影の入れ方が絵とマッチしています。画面中央の木が少し強すぎるので、やや左にシフトし空いた右の空間に街並みを描くと良いでしょう。




田中 良子
裏通り「馬車道」

馬車道とは思えないややうら寂しい裏道の表情をよく捉えています。長屋風の古びた小料理屋は充分 テーマになっています。右をカットした画面への入れ方も適切です。背景の処理も良いでしょう。
道のつき方、ビルの面の向き方に少し違和感があります。パースでのチェックを心がけましょう。





山中 良三郎 
みなとみらい
 
近景の船とみなとみらいの対比が面白いし遠近感が出ています。画面を斜めに切っている船のロープが良い構成になっています。赤レンガをポイントに置くため周りを寒色の色合いで処理し透明感を与えています。水面の表現が少し強すぎる(空のトーンより明るくする)。赤レンガの色を水に反映させると良いでしょう。題名が単調です。




野呂 洋子
海辺の村

セピア色の建物と緑の対比がとても美しい。建物、海、船などもバランスよく構成されていて、遠近感を感じさせます。遠景の処理も良いでしょう。明るい空の柔らかなにじみはいつもながら見事です。
手前の船はやや曖昧です。主題の塔のある建物の周辺にローバリューの濃い色を使うと良いでしょう。




小林 御代
教会のある風景

中間調の淡い色使いが美しい画面を創り出しています。教会はもっと描き込みたくなるのに抑え気味に表現しているので柔らかなしっとりとした空間を感じさせます。自分なりの感じ取り方であまり拘らずスピーディに描き上げています。二本の樹木をもう少し強めに描くとより遠近が出ます。道が強調されすぎています。




土屋 久子
小さい橋のある村

絶好のスケッチポイントを気持ちよく纏めています。屋根を明るいオレンジ色に統一したので、緑とのハーモニーを感じます。左のシンボルツリーは大きさが表現されていて幹の質感も出ています。
やや川が上っているように感じます。二つの橋の間隔を縮めて川の形を変えると良いでしょう。




座間 泰江
九品仏の境内

構図が調っていて安定感のある絵です。山門に至る道と前後の樹木の間に覗く山門が程よく描かれています。山門の位置も的確です。樹木の葉は表情があり色合いも良いと思います。山門の左手前の黄色い草むらはポイントになっています。やや道が上って見えます。左側の道の傾斜を広げ少し山門を下げると良いでしょう。




金久保 美保子
馬のいる村

ユニークな狙いで率直,軽快に描けています。馬に乗っている凛とした女性を主題に捉えた構成が動きもあって面白いです。背景の川や建物をあっさりと処理しているのも適切です。淡い色調も場面にマッチしています。馬の形、手前の草の扱い方を工夫しましょう。今回はマットと額が絵と不釣合いでした。





田澤 郁子
早春の風

構成が良い。ごちゃごちゃした部分を省略し爽やかな風景にまとめています。こうしたイメージでスピーディに描き上げると良い印象の絵になります。家の大きさやトーンで遠近感も出ています。空をカットして画面いっぱいに描けています。緑の色合いが皆似すぎています。もう少し早春らしい色を入れてみましょう。ところどころの濁りは塗りすぎです。




朽方 佳乃
旧軽への誘い

樹木の間に見える建物の入れ方が良い。たて構図一杯に描いた紅葉の色合いも美しくタッチも柔らかな感じです。おしゃれなフィーリングと静けさが漂っていて目を引く作品になっています。
道が描き過ぎです。明るさを残すと周りとの調和が良いでしょう。この場合屋根も白抜きがベターです。家の陰側の壁はもう少し暗く。




谷保 幸子 
初 秋
 
奥に見える建物と樹木の調和が取れて雰囲気が出ています。背景に見える建物の調子もこれでよいでしょう。手前から奥に行く遠近に工夫が必要です。道が立っています。右手前の樹木は大きく突き抜けるように描いてください。秋の色を少し加えてください。描き過ぎて濁らないように気をつけましょう。





小西 房枝
五彩池

バルトブルーのやや強めの色調と遠景の淡い山肌のトーンに差があって美しい広がりを見せています。池に動きが感じられるのも取り囲む風景の静けさからでしょうか。湖面を渡る風の音を感じます。中央手前の草は絵をつまらなくします。遠い山のふもとに部分的に暗い色があっても良いでしょう。地名だけではなく季節、時制、情景、感性等を表す題名にしてください。




天野 宏子 
コッツウォルズの名残 

中間色のウエット・イン・ウエットのハーモニーが美しい。樹木の繁みの重なり合い、家の配置など適切なコンポジションです。メルヘンチックな旅情を誘う作品です。いつもこんな伸びやかな気分で絵筆が取れると良いですね。樹木の幹を少し入れたり、丘の上の木を薄くしたり、花のボツボツを消したりしてみてください。




宮田 ちい子
初夏の風景

中央の橋をポイントに置いて、静けさの漂う空間を上手く描いています。全体の構成が整っています。大きな樹木の表現も勢いがあって良いでしょう。あまり説明していない中で、手前の水草だけが目に入ります。橋は白抜きにしてください。その周辺を含めてテーマになります。左の屋根の上に重なる樹木は家2軒とたての描写が過剰なのでこれを消すとすっきりした空間が生まれます。




柳澤 博
軽井沢の秋

池と樹木だけの単純な構成ですが、雰囲気を良く捉えています。描写もこの程度で適切です。紅葉が絵のポイントになっていて引き締めています。空と水平線が二分されているので思い切って上に上げて樹木を画面いっぱいに描いて大きさを強調し、池が広がった分そこに映る表情をたてのタッチでもう少し描き加えるともっと深みのある絵になります。あっさり描いてメリハリを、が課題です。




齋田 夏江
馬車道十番館

建物の質感と色調がとても良く描けています。中央の白いテラスとフランス国旗がこの絵のインタレストと感じて、周囲を暗く押さえその部分を強調しています。難度の高いモチーフに挑戦し風格のある建物に仕上りました。パースが少し狂っているところがあります。道が上り坂のように見えます。ポジションも少し下げたほうが落ち着くでしょう。題名が絵葉書的です。




高橋 雅美
 旅で出会った町 1

絵の構成がとても良いです。アーリントンローはこのアングルが最も美しいでしょう。フットパスから家並みへの動線が絶妙なバランスで描けています。橋の形も的確です。橋の側面を暗くしてください。柵が長すぎるので奥のほうは切ります。水が流れる様子がもう少し表現できると動きも出てきて良いでしょう。この場合人物の入れ方は成功しています。背景の木の青さをもう少し押さえてはどうでしょう。




小塚 和代
追 憶

セピア色のモノトーンが静かな古い村の佇まいを良く表しています。構図が素晴らしく、パースも正しく描けているので奥行き感が出ています。道に降り注ぐ光と奥の暗さの対比が美しいです。4号サイズに上手く収まった珠玉の小品。モノトーンなので背景の樹木は筆先のムラタッチを白く残して少し小枝などを入れたほうが良いでしょう。サインの入れ方が良い。




内山 万枝子 
アイ川にかかる橋

丁寧に気持ちよく描けています。透明水彩らしい色彩のハーモニーを感じます。橋の付き方、水に映る影など水辺の映り込みが美しく、テーマのはっきりした絵が出来あがっています。近景の草むらの表現もこの程度あっさりで充分です。屋根はもう少し明るくし、背景の建物を少し右に寄せます(建物を短く)。つれて奥の建物も右に寄せ、左の遠景の広がりを見せるとよりバランスが取れるでしょう。




石川 勝
早春の三渓園仏殿

光溢れるバックが美しい輝きを放っています。シルエット風に描いた仏殿とのコントラストが素晴らしい。仏殿の前の一本の木がポイントになっています。この明暗逆抜きのタッチは優れています。両側の柵はどちらかを省略した方がすっきりします。大屋根の付き方(左側面の形を)もう少しはっきりと見せたほうが良いでしょう。





2011/05/03

みずき会に寄せて

2004年1月に横浜山手を描く小さな集いとしてYY会が発足しました。私が前年9月に出展した「チャーチル会ヨコハマ」の絵画展で作品を見た数名の女性から、「こういう透き通った風景画が描きたい。是非指導して欲しい」と懇望されました。人様にお教えするほどのものではないとお断わりしたのですが、それでもと請われて、ではフリースケッチでも・・・と云って元町公園でスタートしたのが、現在の「みずき会」の生い立ちです。

それから、7年を経て、離合集散はありましたが、今は24名のメンバーで毎月第2、第4の水曜、木曜に写生教室を開いています。水、木から「みずき」というネーミングも生まれました。



絵は楽しんで描くこと、あまり強い自意識を持たないこと、そして絵を離れて仲間と触れ合うこと。たまには旅に出かけて心からリフレッシュすること。など私なりのスタイルで1度も挫折することなくここまで継続できたことは信じがたいことでもあります。

勉強をして、それをダイジェストできたら、教室の皆さんに技法としてお伝えする。私はプロの画家ではないからこそそれが出来ると考えています。本当の画家さんの場合は、差別化という言う意味で、自分の持っている秘めた要素を、なかなか伝えようとしません。

本を読めば済む様な、基本的な原理だけを繰り返し、後は自分自身がそこで描いている絵からハウツーを盗めと言わんばかりのレッスンプロが多いのも事実です。生徒さんの方も絵が進化しないのは、教えてくれない先生のお蔭と教室を渡り歩く人もいます。先生に転嫁すれば済むという話ではなく、やはり自分の気持ちの持ちようと絵と向き合う姿勢だと思います。

先生は地図と羅針盤は持っていますが、目標に向かって遠い道のりを歩いて行くのは自分自身です。 そして迷い道だらけの絵の道は、極限のない人生そのものであるような気がします。それがたとえのんびりとした趣味の領域であっても、一定の成果や達成感を伴ってこそ自分を知ることが出来ることとなります。



私はいつまで「みずき会」を発展的に維持できるか分かりません。然し今はまだ心、技、体のバランスが保てているようで、ストレスもありません。いつまでにどうしようという強い目標や目的は持たないようにしています。仮にそこに到着すると本当に完結したと錯覚するかもしれないからです。

今は嘗て私独りが釈迦力に気負ってやっていた時と違い、幹事会という機能があって、どんなことも知恵を出し合い、隔たり無く論議して,進路を決めています。私は極言すれば、技術職に専念すればよいわけです。然し休んだり,呆けたり、腕が落ちたりしてはその職を失うこととなります。それといつも大事にしているのは話術です。

私は教室の現場では絵を描きませんので、アドバイス、画評など言葉で伝えることが殆どです。 いつも言葉は起承転結で、できるだけわかり易く、大きな声で歯切れ良くを心がけています。この点はその道のプロである二人の弟から教わるところ大です。



昨年私にとっては10年ぶり9回目の「コッツウォルズへの12日間旅スケッチ」という偉業を成し得ました。しかもみずき会の皆さんを始め20人のグループで思い出に残る楽しい旅が出来たことは、私にとって画期的なことでした。未だやれるという自信を得たことです。そして宿願であった個展(水と油の夫婦展)へとコッツウォルズの作品を繋げることが出来ました。

この夫婦展は「みずき会」というかけがえの無いバックグランドとひたむきな皆さんのサポートがあってこそのものでした。やがて起きる空前絶後の出来事の直前であっただけに
本当にやれて良かったと感慨もひとしおです。

私の水彩画の原点はコッツウォルズの原風景です。いつ訪れても変わることなくそこに広がる優しい自然と古い家並みには、絵心をそそられずにはいられません。

19世紀初期の英国自然主義画家・ジョン コンスタブルが生まれ育ったイーストアングリア地方も忘れがたい風光に満ち、今なおコンスタブルが描いた当時の村が残っていて、私も旅で絵筆をとった場所です。
私はアルウイン クローショー、ジョン リジー、デビット ベラミー、デビット カーチスなどのイギリスの透明水彩画家の影響を受けながら自分の画風が出来上がってきたと思っています。

然し、私は最近アメリカのマリリン シマンドルという女流水彩画家の研究を続けています。若かりせば彼女の住むカリフォルニアのサンタ イネズに飛んでいってワークショップに入りたい気持ちです。技法書(英語版)やWebで情報を取りノウハウを習得中です。

勿論こんな方法でその域に及ぶことは不可能です。それでも少しでも彼女の水彩画に対する考え方、技法を理解しようとするプロセスが大事だと考えています。彼女の光と影の水彩画は私が蓄えている知識に付け加えるべき洞察と技法に満ちています。

私は自分なりに吸収したものをみずき会の皆さんに伝えて行こうと考えています。

これまで多くの作家の技法書や作品を見て、感動や啓示を受けてきましたが、また一つ仕上げと思えるような仕事が増えました。


2011年4月の「第3回みずき会水彩画展」の記録をWebサイトに公開します。代表作1点ですがどうぞ会員の皆さんの光り輝く作品をご覧ください。 

2011年5月
羽佐間 英二