2010/07/19

2010年7月コッツウォルズスケッチの旅

2010年夏の思い出(イギリス旅スケッチ)

1、プランつくりに明け暮れる

至福の時は静かに流れこの旅も終わった。豊かな時間は何故かくも急ぎ足で過ぎるのか。華やかに始まった憧れの旅も何となく哀愁の余韻を残してその幕を引く。

もう何度も訪れたコッツウオルズは変わらぬ姿で優しく迎え入れてくれた。

一つ一つの景色を見ていると懐かしさがこみ上げてきて旅情溢れ出る想いである。

気持ちをこめて丁寧に作り上げた旅行計画であった。

この旅の計画は数年前に遡る。私は1994年から取り付かれたように7年間欠かさずにイギリス旅行を続けた。そのあとヨ-ロッパの国々を訪ねるのだが

どうしてもイギリス、とりわけコッツウオルズに勝るものはないとの思いが強くなる。イギリスの田舎の風景は透明感と空気感を伝える水彩画のためにこそあると思えてくる。

どうしてももう一度行きたい!風景のカットシーンが目の中に浮かび上がり郷愁を誘う。2009年春、「みずき会水彩画展」(私の主宰する水彩教室)が終わったところで思い立ちグループ旅行の形でのラフプランを作り始める。8月にはイギリスに強いワールドブリッジ社を訪れ具体的なマスタープランつくりに入った。この形で行こうと決めて秋にまず我が愛する「みずき会」に公表する。始めは12~13名くらいのつもりだったのが、“憧れのコッツウオルズへ夢のような旅を」のキャッチフレーズとゆとりの連泊プランがアピールしたのか、またたく間に18名、そして最終的には限界の20名に達した。

「羽佐間英二と行くイギリス旅スケッチ」のタイトルの下,幹事グループを結成しWB(ワールド ブリッジ)を交えながら何度もレビューを重ねプランを練り上げた。






旅のコンセプトは、ゆったりとした気分でコッツウオルズの田舎暮らしに浸ることである。生活感のない日々をのんびりと過ごすことである。

ホテルもトップクラスのスワンホテル(バイブリー)に3連泊、ローズ・オブ・ザ・マナー(ロウアー スローター)に5連泊と贅沢でエレガントなものである。そしてホテルの周辺でも安全、自由に絵が楽しめることを条件とした。


2、コッツウオルズで過ごした日々

私たちはコッツウオルズの美しくのどかな村々を訪ね気の赴くままに絵筆をとった。小鳥たちのさえずり、風の薫り、滴る新緑の深い彩り、清冽なせせらぎ、崩れかけた石垣、そして人が住んでいる遺跡のような家々。すべては時が止まったように変わっていないのだ。私たちは豊かでエレガントな時の中にしばし身も心も委ねた。

凛とした空気の中、朝食前の散歩は日課のように皆楽しんでいた。私はこの時間に出来るだけエスキスを描いた。人の気配のない崩れかけた路地裏を飾る花々が印象的であった。5時には明るく夜は10時前まで薄暮なので、一日が長いし、何よりも平均22℃、雨なしの日々は快適そのものであった。

4つの班を作りリーダーを決めて行動し、ホテルのお弁当を携えての野外写生はピクニック気分で楽しかった。風に乗って聞こえてくる日本語の響きは仲間達の語らいだろうか。こんな田舎町で時折日本の観光客の方と出会い会話を交わすのも旅の楽しみの一つと言える。

この場所、あの景色、そして梢に吹く風の音さえもあの時と同じと思えてくる。

時折ライムストーンの素晴らしいモチーフに for saleの看板が立っているのはそこに住む人の世代交代の故か。その家の歴史の一こまを感じる。


・ バイブリー(スワンホテル3泊)
アーリントンローと呼ばれる古い家並みは何も変わっていない(500年も変わっていないのだから)スワンホテルの前のコルン川の清冽な流れに鱒の群れが走る。300年前には領主の館であったバイブリーコートホテルの敷地内の橋を渡ると牧歌的な風景のフットパスを経て再びスワンホテルの前に出る。






4km程の行程だが30年前に安野光雅はここを訪れ周辺の絵を描いている。

私がスケッチをしていると出会った老紳士が得意げにそのことを話してくれた。


「汝もその類なるや、ひたすらここを描いて画家の道に励め」といった口調だった。ちなみにここバイブリーはウイリアム モリスが「英国で一番美しい村」として愛していたという。

私達の泊まったスワンホテルは名門。周辺の風景はなんとも美しい。朝方と人や車が居なくなる夕方が良い。夜はアウトドアラウンジでワンパイントのビールを傾けながら幹事会を開いた。広報係のIさんの発する夕刊はここでチェックを受け、夜半に各室に配達される。 後に今日は夕刊はないの?と問われるほど名を挙げた。

ある夜更けの出来事・・・・システム故障で全館に警報器のブザーが鳴り響きパジャマ、はだしで廊下や玄関に退避となる。 サプライズと言って笑って済ませないではないか!! 我がホテル係りのYさんは出だしから大忙しだった。

・ ペインズウイック

コッツウオルズの女王と呼ばれる丘の上の美しい村。気品のある落ち着いたパールグレイの色調で、ジョージアンスタイルの建築物が目を引く。一時間足らずの滞在であったが、、絵になるスポットが点在し泊りがけでスケッチしたい村である。





・ チェルトナム

バイブリー、ペインズウイックからここにやってくると大都会に迷い込んだような錯覚におちいる。ビクトリア様式の建物が整然と建っていて気品のある街並みが美しい。私たちは街の中央にある良く手入れされた「インペリアル・ガーデン」でスケッチを、そして夕食は中華料理を楽しむ。

・ アッパースローター(ローズ・オブ・ザ・マナー 5泊)

ホテル以外は何もないともいえる静かな村である。ローズ・オブ・ザ・マナー(後述)での優雅な5連泊だが、あっと言う間の日々だった。もう1、2泊位したかったほどである。本当にお絵描き三昧の日々だった。




木陰に憩いライムストーンの美しい家並みからその背景に遠く広がる緑の丘を眺めているとここはまさに別世界の景観である。

「イギリスのブヨは虫コナーズに寄ってくるよ」というと笑われたが、時折襲来を受けた。

この村のお祭りの日はフットパスを30分足らず歩いたところにあるロウワースロ-ター村で終日スケッチを楽しむ。アイ川のほとりにある小さな村であるがいつ見ても美しいと思う。私はあえて秋バージョンで仕上げてみた。


水車小屋があり、その周りに一軒の小洒落たショップがあるので、早くもみやげ物に興味を示す人もいる。泊まった「ローズ・オブ・ザ・マナー」は1620年に邸宅として建てられたものが現在ホテルとして使われているのだが、ハニーカラーの重厚な建物は周辺の風景に融け込みそのまま絵の構成となる。広大な庭園を早朝に散策しているだけで自然浴の心地よさを感じる。内装、調度も贅沢そのもの、壁掛けの風景画もポイントとなっていて目を楽しませてくれた。部屋の居心地も快適であった。我が家は時折幹事会の会場となった。

ディナーは私達の味覚にもマッチして美味であった。朝食や飲み物の注文もだんだん慣れてYさんのアシストなしで思うものが出てきたようだ。

“ポーチドエッグ、マッシュルーム、アンド ソーセージ プリーズ。バットノー マフィン“等と注文が出来るようになった。食べるものには真剣。素晴らしきかな。

お目当てのアフターヌンティーは、はてな?といった感じ。スタッフの皆さんは誠意をもって対応してくれたが、個人差があるように思えた。


然しスローター村での5日間はこの旅のハイライトとしただけの価値があった。
この優雅な時間と爽やかな空間は心に深く残りこの後も懐かしく思い出すに違いない。







・ チッピング カムデン

12世紀~14世紀にかけて羊毛の集配地として栄えた商業地である。町の中心に残るマーケットホールが当時の面影を伝える。ハイストリートは両側に

ライムストーンの家々がさまざまなデザインで立ち並んでいるが、駐車する車で遮られて美しい通りの全容が見えないのが残念。


珍しい茅葺き屋根の民家は絵にしても面白い。是非写真から描き起こしてみて欲しいモチーフ。







・ ブロードウエイ

広いなだらかな坂道のハイストリートの両側はお店が立ち並ぶ。私達はそれぞれ班ごとに分かれて、木陰やベンチから街並みや建物を描く。


Kさんが私の薦めたスポットを描いていたら、「オー ラブリー!ウエット イン ウエット」と賞賛してくれたと言う。時折海外の街なかで水彩を描く人に出会うので、私はポストカードを忍ばせていて差し上げたりする。

この街では絵よりまずはショッピングへと流れ出す方も多かった。我が班のI
さんは、いち早くパステルカラーの上衣をゲットしご機嫌であった。

陽射しの強い日ながら木陰は涼しく快適であった。建物の描き方簡易講座を開いたのも楽しかった。










・スタントン

ホテルに帰る途中に立ち寄る。殆ど観光客の訪れない知る人ぞ知る小さな静かな村である。

マウントインというパブの下まで歩いて数多くの写真を撮る。私は1999年に訪れているが、このマンホールの蓋の上から描いたとのピンポイントアングルを教える。誰かが「足跡が残っている」と即妙の反応。



アッパースローターで会ったショーファー(ハイヤーの運転手)がスタントンは自分の秘密の場所だと言っていた。この村は描きたい場所だったけど、20人は難しいし、トイレの心配もあるので写生地としては断念せざるを得なかった。

それでも大型バスを乗り入れてくれたことに感謝。


・スタンウエイ

人影一つない静かな村。美しい教会やジャコビアン様式の美しいスタンウエイハウスをバスの中から眺めて通り過ぎる。


・ ボートン・オン・ザ・ウオーター

この村を流れるウインドラッシュ川には五つの特徴的な橋が架かっていてどのアングルから描いてもバックの美しい家並みを取り込んだ叙情的な絵になる。

午後になると家族連れや観光客が押し寄せ一大観光地に変わる。かつてはオールドマンホテルというのに2泊して朝靄の美しい川辺を描いたことを思い出す。
この日も班別で小レッスンとなる。樹木の省略、橋と家のバランスが大事。今回は美しい建物を描く機会が多いのだが、相対的に画面への建物の取り込みが大きすぎるケースが目立ったようだ。ここはコッツウオルズのベニスと称するらしいが私はそうは思わない。共通するものは何もない。

・ バーフォード

1994年7月に私達夫婦がコッツウオルズを訪問した第1号の村である。

(オックスフォードからタクシーで20£であった)一直線に伸びる急坂に沿った街並みである。洒落た感じのハイストリートの上から眺望する遠景の丘陵がきらきらと輝いていて美しくスケールも大きい。街はアンティークの店やパブが立ち並び大人の匂いがする。ロンドンへのオン ザ ウエイなので30分の寄り道を思いつき頼んだのだが、好評で良かった。

どういうわけか、16年前同様に今回もこの村で家内のアクセサリーを求める事となった。前回は最初の日、今回は奇しくもコッツウオルズ最後の日であった。この村は横道にそれると、オープンガーデンの美しい家があったりして絵を描くスポットも多い好みの村で、私自身は3度目の訪問となった。



・ロンドン (ストランドパレスホテル  2泊)

もう何度も来て馴れっこのつもりでも喧騒と雑踏で眩暈がしそう。Uさんが「お伽の国からやってきたので・・・・」と言っていたけどまさに実感である。

ガイドさんのマニュアル的早口は日本語なのだが殆ど耳に入らず。

着いたばかりで今の状態を理解するのがやっとなのに、チェックアウト、出国と言われてもね。この夜はホテルでスターター&ビュフェスタイルであるが、ルームの一角を確保して貰い有難かった。地上に降りてきた感じで、一気に爆発して賑やかとなった。Tさん始め同席の方々がYさんや私にビールを振舞ってくれて、ほぼ終わったという安心感もあり、結構私もはしゃいでいたらしい。

翌日、皆さんは一日のオプショナルツアーに出掛ける。涼しい日でよかった。

私たち夫婦はコベントガーデン、ピカデリーサーカス、リージェントストリートと歩き、オクスフォードサーカスからタクシーでいつも出掛けるポートベローマーケットへ。映画「ノッテングヒルの恋人」(ジュリア ロバーツ・ヒュー グランド)の舞台となったあの本屋がお目当て。美術書をゲット。

コベントガーデンの有名な本屋 スタンフォーズにも立ち寄り紀行書(ここは世界の地図や紀行書が豊富)を求めた。おかげで重くてリュックはパンパン状態。

最後の晩餐の中華料理(チャイナシティ)はなかなかの内容で味もボリュームも好評だった。やっと「紹興酒」にも出会えた。この晩餐のヒットは大きい。

席上、皆さんから私や幹事さんに頂いた感謝の言葉とご芳情には感動あるのみ。

達成感と共に目頭が熱くなるを覚ゆ。 皆さん有難うございます。


3、皆さんからのコメント

帰国後皆さんから頂いたメールからの感想の一部抜粋です。掲載させていただきます。

・ 人生の一ページにこのようなシーンを与えていただいたことを心から感謝しております。

・ 美しい風景皆さんとの日々の語らい。楽しい思い出は生涯忘れないでしょう。

・ 絵本にあるような広々とした牧草地に羊が草を食んでいたり、古い石造りの家が建ち並び、彩り豊かな花があちこちに飾られていて本当に絵にしたくなる風景でした。私の絵はいまいちでしたが・・・・

・ 初めての海外でのスケッチ旅でしたがパッケージツアーにない手作りの旅の良さを満喫させていただきました。

・ 私の海外旅行で最もユニークで贅沢でそして充実してエンジョイした旅でした。出発前の綿密な計画作り、現地での臨機応変の対応、そして用兵の妙、これが今回の旅の成功のベースですね

・ 本当に忘れがたい素敵な旅を有難うございました。何から何まで行き届い

お心遣いに深く感謝しております。

・12日間の楽しかったイギリス旅行も、無事に元気に帰ることが出来ました。先生、幹事さんのおかげです。有難うございました。

・イギリス旅行では色々お世話になりました。この12日間のことはこれから先ずっと忘れられない思い出となるでしょう。

・ 楽しい11日はあっという間に過ぎてしまいました。もう数日、あの景色をただ眺めていたかったという思いです。

・ 飛び入りで希望がかなえられて本当に有難うございました。細かく心配りしていただいたおかげで、良い思い出の出来ましたことに御礼申し上げます。

・ 長年憧れのイギリススケッチの旅おかげさまで大満足でした。

・ おかげさまで楽しい旅に参加させていただき有難うございました。一生の思い出になります。

・ 先生のかねてからの一大事業成し遂げました。素晴らしいことです。あっという間の12日間でしたが、めったにない至福の時でした。


4、エピローグ

こうして振り返るとこの旅はもしかしてロンドン2泊をパスしコッツウオルズ(ボートンでもバーフォードでも)に2連泊して朝早起きでも良いからヒースローに向かうべきだったかなともレビューしている。

但しその場合は本格的なショッピングが出来ないという問題が残る。

かく言うほどに、コッツウオルズは麗しく香しい。牧歌的で詩情溢れるあの自然の風景や古き中世の家並みは、変わることなくいつまでもその姿をとどめ、私たちは記憶の中に蘇らせて想いを熱くするに違いない。さよならコッツウオルズ!また会えることを。

この旅の計画、推進に当たって、色々なリクエストに応え、最後まで真摯に対応していただいたWB社の栃木さん他スタッフの皆さんに改めて感謝します。

現地で素晴らしいガイドで旅を盛り上げていただいた佐々木ひとみさん お世話になりました。そして我が幹事団の皆さんの協力なしにこのプランはありえなかったことを、もって銘記します。 併せて見事に財政を運営してくれたYさんの力量に敬意を表します。               以上


・ 参加者 20名(男性4名、女性16名)
・ 出発  2010年6月28日(月)
・ 帰国     〃 7月9日(金)
・ オーガナイザー  羽佐間英二
・ 取り扱い旅行社  (株)ワールド ブリッジ  


2010/05/12

私と水彩画・・・それでもまたイギリスへ

展覧会に出品していると「どのくらい描いているのですか」「この絵は何処ですか」と聞かれることが多いようです。

多くの出品者は実際10年なのに「3,4年でしょうか・・・」などと曖昧で過少な返事をします。10年と答えると(それでその程度か)と思われるのを心理的に回避したいからでしょう。短く答えておけば「えっ そんな時間でこんなに・・・・」と思わせ本人には気分的に有利かもしれません。

実際はHow long・・・・?ではなくHow many・・・・?なのですが、答えが「そうですね。もうかれこれ300枚になりますか・・・」では会話にならない感じです。



さて自分を振り返ってみて、私が水彩画をまともに描き出したのは1994年7月のイギリスへの夫婦旅でした。バーフォードやマーローという田舎町で、目の前に広がる優しい風景に引き込まれるように小さな絵を夢中で描いたのを懐かしく思い出します。人生観を変えてしまうような旅の心象を今でも忘れることが出来ません。私の水彩画は確かにあの時に始まったのだと思います。

その年から6年続けてイギリスに、ある時はレンターカーで、ある日はローカル列車で、ひたすらスケッチの旅を続けました。やがてコッツウオルズは私の中では第2の故郷となり、訪ね歩いた村は44箇所を数えるほどになりました。



一方では安野光雅の「イギリスの村」の画集に魅せられ、前後してNHKで放映された安野さんの「風景画を描く」という趣味の講座をきっかけに、水彩画を本格的に取り組んでみようとの思いがますます募ってきました。 仕事の会間を見つけて自由に学習できるNHKの通信講座も3年にわたり履修しました。2002年1月にたまたま出会った前川隆敏先生という水彩画家に5年間師事し、あわせて朝日カルチャースクールで7年にわたり常世隆先生の薫陶を受けました。

イギリスやアメリカの水彩画家の著書(和訳、原書)も数限りなく読みました。

2002年4月にはチャーチル会に入会し、絵を通して多くの方々との交流の場を得て現在に至っています。2004年1月には数人の方に請われて水彩画グループを立ち上げました。現在の「みずき会」の前身です。今は25名を数える教室となり、水彩画展を開けるところまで育ちました。



先の質問に対しては、私の水彩画歴(作品として残ってる履歴)は16年と云うことになります。

然し何といっても私の水彩画の原点はイギリスの風景です。そしてそれは今でも変わることなくバックグランドになっています。とりわけ「コッツウオルズ」の村々を訪ね自然の広がりや中世の家並みに触れ、ゆったりと流れる時間の中でのんびりと過ごすのがこよなく好きです。農家や鄙びた宿でさえどこか貴族的なエレガンスが漂うのは、華美というより質朴を美徳とするような慎ましい暮らしの匂いを感じるからでしょう。そして時間に取り残されてしまつたような美しい村はやさしくて純粋で、水彩の画趣に満ちています。



「貴方は何故風景水彩画を描くの?」これも良く問われることです。きざっぽく云えば、「自然がそこにあるから」ということでしょうか。「自然に教えられながら描きとめて行く、風景というモデルに触発されて自分の絵を創っていく」安野流に言えばこうした表現が適切かもしれませんが、自然を模倣するわけでなく形も、色も、光や影も自分の感性で受け止めて絵を創ってゆくそのプロセスが楽しいのでしょう。

ウエット・ イン・ ウエットの偶然性(絵具と水のバランス、混色のさじ加減、紙の乾き具合でにじみの表情が変わる、もう元には戻らないバックランなど)はその都度絵の雰囲気を変えます。美しく出来た時のときめきをもう一度の想いで描いているのかもしれません。

私の好きな作家の一人に右近としこが浮かびます。彼女の著書「ウエット・イン・ウエットで描く」は技法的な示唆に富んでいます。あと全く画風は違いますがデビット カーチスというイギリスの水彩画家やマリリン シマンドル(米)の著書(但し原書)は思わず引き込まれる程の魅力に満ちています。



話題は変わりますが、偉大な写実画家のアンドリュー ワイエスは亡くなるまで、かたくなにペンシルベニアやメイン州の田舎に住み、平凡なもの、目の前にあるものを眺め描き続けてきた作家です。決して印象派を輩出したヨーロッパの自然を描こうとはしなかったそうです。

私ごとき趣味か、道楽で絵を描いている輩が何故わざわざイギリスに行こうとするのか。もう何度も行ったではないか、日本にだって沢山の自然美が深く横たわっているのにと、自ら問いただすこともあります。

然しそうした比較や選択の問題ではなく、向き合う心や呼び覚ます記憶の懐かしさからなのでしょうか郷愁にも似た、心に染み入る想いに誘われて今年またコッツウオルズの旅スケッチに出かけます。

あの崩れかかった家並みは、あの石畳は、小さな石の橋は、大きなシンボルツリーはあの時のままでいてくれるだろうか。木漏れ日の降り注ぐ森の散歩道にいてローズマダージェニュインとコバルトブルーで葉陰を、蜂蜜色の家はローシェンナとバーミリオンそれに少しのセルリアンブルーを混ぜてみようか。


牧歌的な丘はサップグリーンにインデアンレッドをちょっと、あまり使わないコバルトバイオレットとコバルトブルーの混色など、イメージトレーニングが始まりました。

今年の旅はこれまでと形が違って20人のツアーになりました。添乗員のいない手作りの旅ですが、さぞかし賑やかな珍道中となることでしょう。

願わくは心穏やかな静けき時のまどろみを。            以上




2010年5月

2010/03/10

イギリス旅行の楽しみ方


 
今年は7年ぶり(9回目の訪問)にイギリスの旅が約束されていて何となく心が浮き立ち、ふるさとに帰るようなときめきすら覚えている。

あのどことなく貴族のエレガンスを感じてしまうコッツウオルズの佇まいが、目に浮かんで、しみじみと旅情を誘う。森の散歩道、小川のせせらぎ、路地裏の石畳、ライムストンの家並み。目に浮かぶそのすべてが心地よい旅の行方を告げている。そしてともすればおぼろげになっている記憶を呼び覚ますように小さな旅は始まっていくに違いない。

この6月28日~7月9日「羽佐間英二と行く英国コッツウオルズの旅スケッチ」のプランが出来上がった。どうしてもこのマナーハウスに泊まりたい。このスポットで描きたい。

緑滴る木陰で時が止まるような安らぎの中にじっと身を委ねたい。

しかも薔薇の咲き乱れる ブライダルジューンの最中に3連泊、5連泊の贅沢なプランを実現してくれた「ワールド・ブリッジ」の栃木さんには感謝の言葉も無い。

先のエッセイ「水彩画の良く似合う英国の田舎町」は思いのほか好評だったので、今回は旅を楽しくするヒント集をお送りする。これは私の積み上げたメモランダムなので、旅行案内書とは一味違う手作りのSPかもしれない。

・ のんびりと汽車で辿る旅

イギリスの列車は快適というわけではない。ロンドンのすべてのターミナルでその日によって出発のプラットホームが異なるので、旅行者は大きな電光掲示板を仰ぎ見て待つことになる。番線が決まると人々は一斉に自分の乗る列車をめがけて走り出す。

改札チェックは一切無い。降りる時もそうである。車内での車掌の検札はきちんとしている。合理的であり、何度も関門のある日本に比べると気分がいい。

困るのは列車に行き先表示が無いことだ。どこに行くのか、目的の駅で止まるのか確かめて乗る必要がある。私もある時その時間に正確にやってきた列車に飛び乗りこれが時間遅れで到着した特急でロンドンまでノンストップの列車であった。乗り換える予定駅を通りすぎてからそれに気が付き、ロンドンから引き返して目的地に着いたのは夜更けてという出来事もあった。

トーマスクックの時刻表(日本でも売っている)は時折間違えがある。日本の旅行誌等のアクセスや所要時間もいい加減な場合がある。時刻表はその駅でもらえる無料の物が正しくハンディで良い。

ローカル線では多くの列車はドアがボタンで開ける半自動か、自分でハンドルを回して外側に開けるタイプのものである。アガサクリスティの小説の雰囲気であり旅ののどかさを感じる。ファーストクラスは線によっては6人のコンパートメントになっている。といってそんな豪華なものでもなく、かえって密室に閉じ込められている感じがする。

夜間などは少し不安がある。(オリエント急行の殺人 をイメージしてしまう)緊急時は紐を引っ張って知らせるのだが、いたずらで触ると50£の罰金である。(地下鉄も同様)道路以外は鉄道に頼るしかないので鉄道網はよく整備されている。然し民営化されて久しいが、競争してサービスの向上や施設の改善がと思うけど、古き伝統を大事にする英国人さながらに頑固なまでに昔のやり方を貫いている。突然本日はストライキ、も日常茶番事である。車窓に広がる景色の広大な美しさに比べると列車や駅やサービスの質は劣るのが実感である。

それでものどかな各駅停車のローカル線の旅は、英国ならではの旅情に満ちている。

ブリットレイル パスという外国からのツーリスト向けのサービスがある。切符を買う手間が省けるし、コスト的にも大幅割安感がある。シニア向けの割引も嬉しい。車内の検札もこれを持っているとツーリストとして敬意を表してくれる。但しローカル線ではあまり見かけないらしく戸惑っているコンダクターもいて、こちらが仕組みを説明する場面もあった。こんな微笑ましい出会いを乗せて汽車の旅はゆったりと続く。


・ ロンドンはバスが面白い

ロンドン市内の足は他の国と同じようにバス、タクシー、地下鉄の3つでそれぞれ独特の個性を持っているが、楽しめるのはダブルデッカーと呼ばれる例の2階建ての赤いバスであろう。それも新式のワンマンバスではなく旧式の車掌つきのがよい。乗る時は停留所でルートNO.を確かめて、降りる時は外の景色を眺めながらこの辺だと思って赤いボタンを押したり、紐を引っ張ったりして降りる意志を告げる。行き過ぎたら信号待ちの間に適当なタイミングで飛び降りている人もいる。勿論車掌に予め頼んでおけば

大声で停留所名を教えてくれる。次は○○というアナウンスは無いので、降りたいところで降りろといった感じである。一日券を買えばどこで乗っても降りても何回でも自由である。2階に座りっぱなしで往復を楽しめば観光にもなる。

馴れてしまえばこれほど便利なものは無い。無料のバスマップは必携である。

目的地に早く着きたい場合は地下鉄を選ぶことになる。パリと並んで穴倉と迷路で暗くて汚い。単なる移動の手段と考えたほうがが良い。

ロンドン市内を動き回る場合はバス、地下鉄共通のワンデイ トラベルカードが激安で便利である。ZONE1,2を買っておけば市内の殆どが網羅できるし、何度でも乗れる(前は2,80£だった)


・ ノーブルなタクシードライバー

黒塗りのタクシー(ブラックキャブ)は快適である。ドライバーも紳士然としていてマナーが良く、博識である。かなり難しい試験をパスしてのドライバーなので信頼度は高い。乗る時は助手席の窓を下げてもらい行き先を告げてokなら後部の扉を自分で開けてまずはレディを乗せて自分も乗ってドアを閉める。降りる時はこの逆となる。ドライバーは市内の地理や道路事情に詳しく、最も適したルートを走ってくれる。

料金メーターは二つあって合算したものが支払うべき運賃である。曜日とか時間帯でベース料金を別建てで支払う仕組みである。着いたらたらまず外に出て窓越しに金額を聞いて料金を払い、別に10%~15%のチップを払う。

ドライバーはポーターでは無いので、車体の高いオースティンの後部座席にスーツケースをヨイショ!と乗せるのはこちらの役目である。ホテルではドアボーイがやってくれる。

湖水地方やコッツウオルズなどでは、タクシーと時間契約をして回るのが一番である。

ショーファーと称する案内ドライバーが親切にポイントを回って説明してくれる。一日80£位で請け負ってくれる。

私はこの方法で2日間湖水地方を回ったが、通常1週間滞在してこなせるような広範囲の行程であった。勿論簡単なスケッチをしながらである。


・ スケッチはレンタカーがベスト

ある年コッツウオルズの村々を3日間で300KMほどレンタカー(プジョーのコンパクトカー)で走ってみた。道路は整備され、標識も見やすいがその地方の詳しいロードマップは必携である。一般道路は50~60マイル、高速は80マイルの制限スピードとなっているが、ハイウエイでは皆お構いなしにぶっ飛ばしている。ポリスカーによるチェックにはお目にかかったことが無いがカメラチェックで後々御用となるらしい。

ラウンド アバウトというロータリーのようなものがやたらと多い。時計回りオンリーで右側優先の単純なルールなのだが、これが慣れるまでちょっと神経を使う。しまったと思ってもあわてないで、ぐるぐる回りながら出る方向を見極めて、抜け出すこととなる。信号方式よりスムーズで流れが良いので渋滞は殆ど無い。

英国のガソリンスタンドはペトロール ステーションといい自動給油方式である。日本のシステムと変わりない。ロンドンのような複雑な道路は無理として、レンタカーで行くスケッチ旅は制約がなく、これはと思うスポットで車を止めて描けるので便利この上ない。右ハンドルであるのが何よりも抵抗が無い。細い道に進入することもあるので、1000cc程度の小型車が良い。


・ イギリスは美味しいか?

イギリスにグルメの旅をする人は珍しいといわれる。確かに肉料理とか魚料理とかの

違いはあってもソースは単純な味だし、ついている野菜はボイルしただけの水っぽいものである。細やかな加工とかデリケートな味わいとは程遠い。だから単純にハム、ソーセージ、ベーコン、ロストビーフとかマッシュルームのソテーといった単品の方が美味しい。普通は3コースとしてスターター、メインディシュ、そしてスイーツとなっていてそれぞれその中からメニューを選ぶ。スープは案外美味しいしボリュームもある。パンはどこで食べても失望することない。だからホテルでの朝食はコンチネンタルタイプのもので充分である。パンとママレード、フレッシュジュース、ティー、フルーツで楽しめる。何しろ料理というものはボリューム本位である。パスタなどは深い皿に山盛りで出てくるので、シェアーするしかない。たまにレデースポーション プリーズで少なく盛り付けてくれるビストロもあるが、あまりお構いなしである。サンドウイッチ、フィッシュ&チップスなどパブも然りである。

甘いスイーツを無理やり水で流し込んだあと、また出てきた銀製の器の蓋を恐る恐る開けたら中身はチーズのアソートメントだった時は思わずのけぞってしまった。

ステーキはウェルダンで注文すると適当に焦げ目がついていて美味しい。魚料理は

サーモンか鱒が定番であるが、コッドという鱈のような白身の魚にソースのかかった程度のもので、いわんや焼物、煮物、加工した魚料理にはありつけない。ドーバーの舌平目など高いだけで美味しくない名物もあるのでご用心を。

水は硬水なのでとにかく紅茶の風味は抜群といえる。ミルクテイーがポピュラーなようだがむしろプレーンの香りを味わったほうが良い。スープが美味しいのも水のせいかもしれない。英国のホテルは水道水を飲んでも差し障りは無いが、ボトル入りのミネラルウォーター(ノンガス)を薦める。

ビールは生ビールがいける。ワンパイントはさしずめ中ジョッキ、ハーフパイントは小

ジョッキ(1£)といった感じである。ワインは日本のレストランの半値程度である。勿論ピンキリだけど、フルボトルで15£位が普通である。

アフターヌーンティーのひとときはホテルのラウンジ、パブ、街なかのティルーム等

どこでもリーゾナブルに楽しめる。本格的なハイティーとなると、サンドウィッチのアソートメント、ジャム、生クリームつきのスコーン、イチゴのタルトや甘くないシュークリームなどなどの3段トレーとあつあつのティーポットとうすめ用のホットウオーターが出てきて一人5~10£くらい。午後のひとときおしゃべりをしたり、本を読んだりの、のんびりとした時間が過ごせる。街なかではティーとクッキーなら2£で楽しめる。日本の喫茶店の何とばかばかしいことか。

ついでに、どこの国でも同じだが、町なかで日本料理は食べないほうが無難である。

中華は気軽に行けるが当たりはずれがあって、必ずしも満足を得られるわけではない。

お昼のわんたん、焼きそば、チャーハン、といった定番物はまず問題ない。。

日本語つきのメニュー看板で誘っている店は避けて、チャイニーズのお客が入っている

小さな店が狙い目といえる。ロンドンではチャイナタウンを外れた町なかに店を構えている老舗がおすすめである。つい感激してチップを弾んでしまい、あとでやり過ぎたと後悔のこともある。

ツーリストにとって、イギリスは不味いとの間違った定説があるが、本格的なレストランで味わうモダンブリティシュと呼ばれる料理は素晴らしいし、ロンドンでは各国料理

を思いのまま味うことができる。

林望によると「イギリス人は味の個人主義があって、フランス人のようにこれは正しいのだといわんばかりのお仕着せの味付けを強制しない。だから必ずテーブルに置いてある食卓塩で自分の好きな程度に塩味をつければよい」と云っている。

  これは納得のゆくコメントである。イギリス人はもともと塩味に対する感覚が鈍いだけのことなのだ。あの水っぽい温野菜には是非適量の塩をどうぞ。

  ついでにイギリスの料理店はパブ、ブラッセリー、ビストロ、レストランの順序で

  ランキングされていると思えば良い。


・ショッピングは地方都市が面白い 

ロンドンでボンドストリートや.リージェントストリートでウィンドウショッピングするのは華やかで楽しい。オックスフォードストリートというのは人が多いだけで、汚くて、柄が悪いので避けたほうが良い。ロンドンよりも地方都市に行った折に気に入ったものが割安で買えるので、気をつけて歩くと良い。現物の良し悪しを自分の目で確かめて、値段と相談し、買うとなったら、ベストプライスを引き出して求めると良い。私はポートベロー(映画・ノッティングヒルの恋人で有名)のマーケットが好きで、ロンドンでの半日をここで費やすことが多い。アクセサリーやアンテーィクの店を覗いて歩くだけでも興味は尽きない。パブの看板のミニチュア、スケッチのポストカードや画材、ガラクタ市の小物、めちゃ安の果物(夜・ホテルで)などだんだんとバッグが重くなってしまう。

それにしても、日本人は何故外国に来て日本のデパートでものを買う習性があるのだろうか。何もここまできて三越の包装紙で丁寧にラッピングされたお土産を買い込むこともあるまいと思うしデパートならハロッズのほうがすべてにおいてエキサイティングでエクセレントなのだから。

イギリスと日本の物価を円ベースで比較してみる。

高いもの

タバコ、鉄道(BR)の運賃、料理全般(中華も含め)、ホテル代、VAT(消費税)

チップ

安いもの

衣料品、(スーツ、シャツ)靴、ビール、ワイン、観劇、街のスナック・ティー、地下鉄・バス代、タクシー代、 このあとミュージカル、ホテル事情などなど紹介したいこともあるが、今日のところはこれにて中締めとします。                 

 ところでおまけにもう一つの小知識を付け加えます。(これも林さんの説)

 イギリスを旅しながら似たような名前の町や村に出会う。そこに名づけの意味があるはずだと思っていたが、地名の末尾につく意味合いは次のようなものである。

  ~ton   ~の農場

  ~don   ~の丘、または谷

  ~worth  ~家の所有地

  ~chester  ~城

  ~ham   ~の入植地

  ~ford   ~の渡し



 これだけでも旅の楽しみがまた一つ増えたような気がする。    以上                    

          

2010/01/21

大衆演芸に感動す

16日に恒例の3兄弟新年会がありました。今年のアトラクションは寄席をということで、チェックをしていましたが、どうも気に入るものがなく、今流行の3D映画にでも行こうかと相談していました。
数日後、横浜の場末に「三吉演芸場」というのがありそこで「春陽座」というのが公演しているらしとの情報が入りました。何となく聞いていたのですが、とにかく下見をしてみようと現場下調べに直ぐ出かけてみました。
「阪東橋」という地下鉄駅で下車「横浜橋通商店街」という活気溢れるアーケードを通り抜けたところに想像以上の立派な建物が目に飛び込んできました。小さな小屋程度のイメージだったので、これに驚き直ちに、ここに決めた!となりました。以下所感をブログ用にまとめました。


===

 過日恒例の三兄弟新年会で、大衆演劇 「春陽座」の公演を観た。


メインのお芝居は鬼平犯科帳の中から「般若と菩薩」の一幕三場の単純な構成であり、舞台も簡素な設えで田舎の芝居小屋といった感じ。眠くなるのでは・・・の予感は冒頭の火付盗賊改方 長谷川平蔵(テレビでは吉右衛門のはまり役)の登場場面から消し飛んだ。

放火殺人犯のお仙という女を処刑すべく西方から江戸に向かう途中、立ち寄った旅籠での出来事である。ここでお仙は離れ離れになっていた仙吉というわが子とふとしたことで再会の機会が訪れる。人殺しの子といじめられていた仙吉は母恋しの再会で親子は抱き合って涙ながらに喜びを分かつ。(このあたりの情景でこちらもうるうるとなる)

お仙はせめて江戸までの10日間を仙吉と共にしたいと平蔵に懇願する。平蔵は”それはならぬ。見るも無残な姿で処刑される母の姿をまぶたに焼付け、息子仙吉は一生を送ることになる。”として泣いてすがるお仙の思いを聞き入れない。

仙吉が場を離れているわずかな間に「仙吉を預かりわが子として立派に育てるのでお前はここで胸を突いて果てろ、今すぐにだ」とお仙に迫る。お仙は笑みを浮かべて自ら命を絶つ。そこに戻った仙吉は短刀を胸に突き立てた母の変わり果てた体に身を沈め 「なぜだもうずっと一緒だと約束をしたのに母ちゃんのうそつき」と泣き叫ぶ。平蔵は静かに仙吉をいたわりながら幕は下りてゆく。


こんな芝居なのだが、皆泣いてしまった。プロの役者の羽佐間道夫が涙が止まらないほどの芝居であった。これは本物だと感じた。この主役3人の演技は見事であった。そして私は、平蔵のような、般若のような厳しさの中に菩薩の心を持つリーダーが少ないことを痛感していた。

ところでこれを機会に大衆演劇を調べてみたら200程の劇団が登録されていることが分かった。「春陽座」のように殆どが家族や一族で構成し厳しい練習、修行を重ねている。私が驚いたのは芝居のレパートリーの多さである。今回の「春陽座」もこの1月公演で一日として同じ演目の日はない。日替りで同じ客を集めるという手法かもしれない。

大衆演劇の要素をまとめてみた。

1、お芝居のストーリーが単純であること
2、セリフが短く判りやすいこと
3、笑いを誘い、一方で泣けること
4 役者が余り洗練されず泥臭いこと
5、入場料が安いこと

三吉演芸場は昭和5年にその源があるらしい、昭和48年に正式に立ち上げ、平成10年に今の立派な建物が出来上がったという。清潔感溢れる良い劇場だと感じた。

帰路の「横浜橋通商店街」が面白い。500mのアーケードの左右にお店が隙間なく立ち並び京都の錦市場の感じである。往きに見当をつけ、帰りに買い物を薦める。安くて良質の買い物が出来る

大衆演劇と庶民の市場・・・いつもとは一味違う新年会であった。