1、プランつくりに明け暮れる
至福の時は静かに流れこの旅も終わった。豊かな時間は何故かくも急ぎ足で過ぎるのか。華やかに始まった憧れの旅も何となく哀愁の余韻を残してその幕を引く。
もう何度も訪れたコッツウオルズは変わらぬ姿で優しく迎え入れてくれた。
一つ一つの景色を見ていると懐かしさがこみ上げてきて旅情溢れ出る想いである。
気持ちをこめて丁寧に作り上げた旅行計画であった。
この旅の計画は数年前に遡る。私は1994年から取り付かれたように7年間欠かさずにイギリス旅行を続けた。そのあとヨ-ロッパの国々を訪ねるのだが
どうしてもイギリス、とりわけコッツウオルズに勝るものはないとの思いが強くなる。イギリスの田舎の風景は透明感と空気感を伝える水彩画のためにこそあると思えてくる。
どうしてももう一度行きたい!風景のカットシーンが目の中に浮かび上がり郷愁を誘う。2009年春、「みずき会水彩画展」(私の主宰する水彩教室)が終わったところで思い立ちグループ旅行の形でのラフプランを作り始める。8月にはイギリスに強いワールドブリッジ社を訪れ具体的なマスタープランつくりに入った。この形で行こうと決めて秋にまず我が愛する「みずき会」に公表する。始めは12~13名くらいのつもりだったのが、“憧れのコッツウオルズへ夢のような旅を」のキャッチフレーズとゆとりの連泊プランがアピールしたのか、またたく間に18名、そして最終的には限界の20名に達した。
「羽佐間英二と行くイギリス旅スケッチ」のタイトルの下,幹事グループを結成しWB(ワールド ブリッジ)を交えながら何度もレビューを重ねプランを練り上げた。
旅のコンセプトは、ゆったりとした気分でコッツウオルズの田舎暮らしに浸ることである。生活感のない日々をのんびりと過ごすことである。
ホテルもトップクラスのスワンホテル(バイブリー)に3連泊、ローズ・オブ・ザ・マナー(ロウアー スローター)に5連泊と贅沢でエレガントなものである。そしてホテルの周辺でも安全、自由に絵が楽しめることを条件とした。
2、コッツウオルズで過ごした日々
私たちはコッツウオルズの美しくのどかな村々を訪ね気の赴くままに絵筆をとった。小鳥たちのさえずり、風の薫り、滴る新緑の深い彩り、清冽なせせらぎ、崩れかけた石垣、そして人が住んでいる遺跡のような家々。すべては時が止まったように変わっていないのだ。私たちは豊かでエレガントな時の中にしばし身も心も委ねた。
凛とした空気の中、朝食前の散歩は日課のように皆楽しんでいた。私はこの時間に出来るだけエスキスを描いた。人の気配のない崩れかけた路地裏を飾る花々が印象的であった。5時には明るく夜は10時前まで薄暮なので、一日が長いし、何よりも平均22℃、雨なしの日々は快適そのものであった。
4つの班を作りリーダーを決めて行動し、ホテルのお弁当を携えての野外写生はピクニック気分で楽しかった。風に乗って聞こえてくる日本語の響きは仲間達の語らいだろうか。こんな田舎町で時折日本の観光客の方と出会い会話を交わすのも旅の楽しみの一つと言える。
この場所、あの景色、そして梢に吹く風の音さえもあの時と同じと思えてくる。
時折ライムストーンの素晴らしいモチーフに for saleの看板が立っているのはそこに住む人の世代交代の故か。その家の歴史の一こまを感じる。
・ バイブリー(スワンホテル3泊)
アーリントンローと呼ばれる古い家並みは何も変わっていない(500年も変わっていないのだから)スワンホテルの前のコルン川の清冽な流れに鱒の群れが走る。300年前には領主の館であったバイブリーコートホテルの敷地内の橋を渡ると牧歌的な風景のフットパスを経て再びスワンホテルの前に出る。


4km程の行程だが30年前に安野光雅はここを訪れ周辺の絵を描いている。
「汝もその類なるや、ひたすらここを描いて画家の道に励め」といった口調だった。ちなみにここバイブリーはウイリアム モリスが「英国で一番美しい村」として愛していたという。
私達の泊まったスワンホテルは名門。周辺の風景はなんとも美しい。朝方と人や車が居なくなる夕方が良い。夜はアウトドアラウンジでワンパイントのビールを傾けながら幹事会を開いた。広報係のIさんの発する夕刊はここでチェックを受け、夜半に各室に配達される。 後に今日は夕刊はないの?と問われるほど名を挙げた。
・ ペインズウイック

・ チェルトナム
バイブリー、ペインズウイックからここにやってくると大都会に迷い込んだような錯覚におちいる。ビクトリア様式の建物が整然と建っていて気品のある街並みが美しい。私たちは街の中央にある良く手入れされた「インペリアル・ガーデン」でスケッチを、そして夕食は中華料理を楽しむ。
・ アッパースローター(ローズ・オブ・ザ・マナー 5泊)
木陰に憩いライムストーンの美しい家並みからその背景に遠く広がる緑の丘を眺めているとここはまさに別世界の景観である。
「イギリスのブヨは虫コナーズに寄ってくるよ」というと笑われたが、時折襲来を受けた。

水車小屋があり、その周りに一軒の小洒落たショップがあるので、早くもみやげ物に興味を示す人もいる。泊まった「ローズ・オブ・ザ・マナー」は1620年に邸宅として建てられたものが現在ホテルとして使われているのだが、ハニーカラーの重厚な建物は周辺の風景に融け込みそのまま絵の構成となる。広大な庭園を早朝に散策しているだけで自然浴の心地よさを感じる。内装、調度も贅沢そのもの、壁掛けの風景画もポイントとなっていて目を楽しませてくれた。部屋の居心地も快適であった。我が家は時折幹事会の会場となった。
ディナーは私達の味覚にもマッチして美味であった。朝食や飲み物の注文もだんだん慣れてYさんのアシストなしで思うものが出てきたようだ。
お目当てのアフターヌンティーは、はてな?といった感じ。スタッフの皆さんは誠意をもって対応してくれたが、個人差があるように思えた。
この優雅な時間と爽やかな空間は心に深く残りこの後も懐かしく思い出すに違いない。
・ チッピング カムデン
12世紀~14世紀にかけて羊毛の集配地として栄えた商業地である。町の中心に残るマーケットホールが当時の面影を伝える。ハイストリートは両側に
ライムストーンの家々がさまざまなデザインで立ち並んでいるが、駐車する車で遮られて美しい通りの全容が見えないのが残念。
珍しい茅葺き屋根の民家は絵にしても面白い。是非写真から描き起こしてみて欲しいモチーフ。
・ ブロードウエイ
広いなだらかな坂道のハイストリートの両側はお店が立ち並ぶ。私達はそれぞれ班ごとに分かれて、木陰やベンチから街並みや建物を描く。
Kさんが私の薦めたスポットを描いていたら、「オー ラブリー!ウエット イン ウエット」と賞賛してくれたと言う。時折海外の街なかで水彩を描く人に出会うので、私はポストカードを忍ばせていて差し上げたりする。
この街では絵よりまずはショッピングへと流れ出す方も多かった。我が班のI

さんは、いち早くパステルカラーの上衣をゲットしご機嫌であった。
陽射しの強い日ながら木陰は涼しく快適であった。建物の描き方簡易講座を開いたのも楽しかった。

・スタントン
マウントインというパブの下まで歩いて数多くの写真を撮る。私は1999年に訪れているが、このマンホールの蓋の上から描いたとのピンポイントアングルを教える。誰かが「足跡が残っている」と即妙の反応。
アッパースローターで会ったショーファー(ハイヤーの運転手)がスタントンは自分の秘密の場所だと言っていた。この村は描きたい場所だったけど、20人は難しいし、トイレの心配もあるので写生地としては断念せざるを得なかった。
それでも大型バスを乗り入れてくれたことに感謝。
・スタンウエイ
人影一つない静かな村。美しい教会やジャコビアン様式の美しいスタンウエイハウスをバスの中から眺めて通り過ぎる。
・ ボートン・オン・ザ・ウオーター
この村を流れるウインドラッシュ川には五つの特徴的な橋が架かっていてどのアングルから描いてもバックの美しい家並みを取り込んだ叙情的な絵になる。
午後になると家族連れや観光客が押し寄せ一大観光地に変わる。かつてはオールドマンホテルというのに2泊して朝靄の美しい川辺を描いたことを思い出す。
この日も班別で小レッスンとなる。樹木の省略、橋と家のバランスが大事。今回は美しい建物を描く機会が多いのだが、相対的に画面への建物の取り込みが大きすぎるケースが目立ったようだ。ここはコッツウオルズのベニスと称するらしいが私はそうは思わない。共通するものは何もない。
・ バーフォード
1994年7月に私達夫婦がコッツウオルズを訪問した第1号の村である。
(オックスフォードからタクシーで20£であった)一直線に伸びる急坂に沿った街並みである。洒落た感じのハイストリートの上から眺望する遠景の丘陵がきらきらと輝いていて美しくスケールも大きい。街はアンティークの店やパブが立ち並び大人の匂いがする。ロンドンへのオン ザ ウエイなので30分の寄り道を思いつき頼んだのだが、好評で良かった。
どういうわけか、16年前同様に今回もこの村で家内のアクセサリーを求める事となった。前回は最初の日、今回は奇しくもコッツウオルズ最後の日であった。この村は横道にそれると、オープンガーデンの美しい家があったりして絵を描くスポットも多い好みの村で、私自身は3度目の訪問となった。
・ロンドン (ストランドパレスホテル 2泊)
もう何度も来て馴れっこのつもりでも喧騒と雑踏で眩暈がしそう。Uさんが「お伽の国からやってきたので・・・・」と言っていたけどまさに実感である。
ガイドさんのマニュアル的早口は日本語なのだが殆ど耳に入らず。
着いたばかりで今の状態を理解するのがやっとなのに、チェックアウト、出国と言われてもね。この夜はホテルでスターター&ビュフェスタイルであるが、ルームの一角を確保して貰い有難かった。地上に降りてきた感じで、一気に爆発して賑やかとなった。Tさん始め同席の方々がYさんや私にビールを振舞ってくれて、ほぼ終わったという安心感もあり、結構私もはしゃいでいたらしい。
翌日、皆さんは一日のオプショナルツアーに出掛ける。涼しい日でよかった。
私たち夫婦はコベントガーデン、ピカデリーサーカス、リージェントストリートと歩き、オクスフォードサーカスからタクシーでいつも出掛けるポートベローマーケットへ。映画「ノッテングヒルの恋人」(ジュリア ロバーツ・ヒュー グランド)の舞台となったあの本屋がお目当て。美術書をゲット。
コベントガーデンの有名な本屋 スタンフォーズにも立ち寄り紀行書(ここは世界の地図や紀行書が豊富)を求めた。おかげで重くてリュックはパンパン状態。
最後の晩餐の中華料理(チャイナシティ)はなかなかの内容で味もボリュームも好評だった。やっと「紹興酒」にも出会えた。この晩餐のヒットは大きい。
席上、皆さんから私や幹事さんに頂いた感謝の言葉とご芳情には感動あるのみ。
達成感と共に目頭が熱くなるを覚ゆ。 皆さん有難うございます。
3、皆さんからのコメント
帰国後皆さんから頂いたメールからの感想の一部抜粋です。掲載させていただきます。
・ 人生の一ページにこのようなシーンを与えていただいたことを心から感謝しております。
・ 美しい風景皆さんとの日々の語らい。楽しい思い出は生涯忘れないでしょう。
・ 絵本にあるような広々とした牧草地に羊が草を食んでいたり、古い石造りの家が建ち並び、彩り豊かな花があちこちに飾られていて本当に絵にしたくなる風景でした。私の絵はいまいちでしたが・・・・
・ 初めての海外でのスケッチ旅でしたがパッケージツアーにない手作りの旅の良さを満喫させていただきました。
・ 私の海外旅行で最もユニークで贅沢でそして充実してエンジョイした旅でした。出発前の綿密な計画作り、現地での臨機応変の対応、そして用兵の妙、これが今回の旅の成功のベースですね
・ 本当に忘れがたい素敵な旅を有難うございました。何から何まで行き届い
お心遣いに深く感謝しております。
・12日間の楽しかったイギリス旅行も、無事に元気に帰ることが出来ました。先生、幹事さんのおかげです。有難うございました。
・イギリス旅行では色々お世話になりました。この12日間のことはこれから先ずっと忘れられない思い出となるでしょう。
・ 楽しい11日はあっという間に過ぎてしまいました。もう数日、あの景色をただ眺めていたかったという思いです。
・ 飛び入りで希望がかなえられて本当に有難うございました。細かく心配りしていただいたおかげで、良い思い出の出来ましたことに御礼申し上げます。
・ 長年憧れのイギリススケッチの旅おかげさまで大満足でした。
・ おかげさまで楽しい旅に参加させていただき有難うございました。一生の思い出になります。
・ 先生のかねてからの一大事業成し遂げました。素晴らしいことです。あっという間の12日間でしたが、めったにない至福の時でした。
4、エピローグ
こうして振り返るとこの旅はもしかしてロンドン2泊をパスしコッツウオルズ(ボートンでもバーフォードでも)に2連泊して朝早起きでも良いからヒースローに向かうべきだったかなともレビューしている。
但しその場合は本格的なショッピングが出来ないという問題が残る。
かく言うほどに、コッツウオルズは麗しく香しい。牧歌的で詩情溢れるあの自然の風景や古き中世の家並みは、変わることなくいつまでもその姿をとどめ、私たちは記憶の中に蘇らせて想いを熱くするに違いない。さよならコッツウオルズ!また会えることを。
この旅の計画、推進に当たって、色々なリクエストに応え、最後まで真摯に対応していただいたWB社の栃木さん他スタッフの皆さんに改めて感謝します。
現地で素晴らしいガイドで旅を盛り上げていただいた佐々木ひとみさん お世話になりました。そして我が幹事団の皆さんの協力なしにこのプランはありえなかったことを、もって銘記します。 併せて見事に財政を運営してくれたYさんの力量に敬意を表します。 以上
・ 参加者 20名(男性4名、女性16名)
・ 出発 2010年6月28日(月)
・ 帰国 〃 7月9日(金)
・ オーガナイザー 羽佐間英二
・ 取り扱い旅行社 (株)ワールド ブリッジ